2011年8月10日水曜日

fractale 外苑西通り編(5・終)

千葉に戻った僕と、
母との二人暮らしが始まった。
正確には小柴さんと三人暮らしなのだが、
彼は、ほとんど家にいなかった。
母は父と結ばれたときからすべてを理解しており、
僕を育て上げることが使命になっている。

父は、千葉には二度と戻らなかった。

「25年後のために動き出します。」
小柴さんはそう告げて、世界中を飛び回っていた。
年に1度くらいの間隔で会うことが出来た程度。

25年後に何かが起きる。
そのときのために僕は生まれたのだ。

***

ぼくは中学を卒業し、高校を卒業し、大学を卒業し、
傍目には、いたって普通に育っていった。

龍蛇族と人間の子である自分の運命を受けとめている僕は、
高校に入ったときから、自分なりの準備をしてきた。

治癒能力を鍛える努力をした。
年に数回、死に直面するようなダメージを自らに科した。

5人の同志もできた。
僕の治癒能力に魅せられ、このお伽噺のようなことを信じてくれた。
僕の鍛錬のサポートをしてくれる。

この5人は僕と同じ大学へ進み、
同じ会社へ就職した、
外苑西通りの会社に。

全ては小柴さんの指示。
就職した会社も小柴さんの会社だ。
その後、5人で独立し、
外苑西通り沿いにオフィスを構えた。
小柴さんの代わりにある準備を進めるために。

***

小柴さんは、
岐阜県飛騨市神岡町に、ニュートリノ(中性微子)を検出する
巨大な地下装置を作った。
表向きは物理学研究だが、このニュートリノこそが、
龍蛇族のエネルギーになる。

ニュートリノを検出するためにはチェフレンコフ放射を使う。
チェフレンコフ放射とは、荷電粒子が物質中を運動する時、
荷電粒子の速度がその物質中の光速度よりも速い場合に光が出る現象である。
そのチェフレンコフ放射を手のひら程の大きさの装置で発生させられる発明を、
小柴さんは秘密裏に成し遂げていた。
一見、金属のボールにしか見えない装置で。

このことにより、どのような場所でも条件が合えば、ニュートリノを検出できる。
しかも、この装置によるチェフレンコフ放射は、
人の脳波に狂いを生じさせることが実証されていた。

もし、このことが発表されたら、人類の進む方向を変えてしまう程の発明だ。

この装置に、僕(龍蛇族と人間の子)の治癒時にでる波動を加えると、
一瞬ではあるが、人の脳をハッキングしたような状態にすることが出来る。
これも長い研究の末に開発された技術だ。
チェフレンコフ放射はニュートリノ以外にも、
人間が発する「気」を検出することが出来るため、
個人を特定してハッキングすることが出来る。

これを僕が意のままに操るための研究を、5人の仲間と進めていたのだ。

***

そして現在、2011年3月8日、
先ほどの東京食品販売国民健康保険組合本部前での爆破事件が起こることは、
前もって小柴さんから知らされており、対応することが出来た。
フェラーリから救った男のことは、僕は知らない。
小柴さんから助けるように指示されただけだった。
爆破を実行した相手が何者なのかも知らない。

そして、今は、有栖川公園の地下にいる。
助けた男はずっと気絶したままだ。

***

有栖川宮熾仁親王騎馬像の台座下の階段を30メートルほど下っただろうか、、、
小学校の体育館程もある基地のような空間が現れた。
幾重にもガラスの壁で仕切られており、
飛行機のコクピットのようなブースが20ヶ所ほど見受けられる。
コンピュータが動く音はするが、人の気配はすくない。
僕が認識できた人数は12人。
奇妙なバランスだ。

床から5メートルくらいの高さにキャットウォークが巡らされており、
全ての場所を俯瞰できる。

体育館のようなアーチ型の天井は、全てがスクリーンになっていて、
いくつもの監視画像、レーダー、何かをカウントしているような数字の群れが、
踊っている。

「ここは警視庁公安部テロ対策本部です、フラクタル」
隊長が言った。

警視庁公安部、、、、
そう言えば、25年前の出雲大社で小柴さんから聞かされたこと、、、
思い出した。

「隊長、ここは龍蛇族の基地ということですか?」

「はい、あなたのための場所でもあります。」

「僕のための?」

「フラクタルたちをサポートする施設と思って下さい。」

「たち?」

「あなたと同じ能力をもつ同志がまだ他にもいます。
その一人は、今、ここへ向っています。」

「そうなのか、、僕だけじゃないんだ」
「それから、まだ、、、、僕は何をすれば良いのか理解していません。」

「すぐにその時が来ます、、焦ることはないです。」


僕は興味深く基地内を見渡し、2分程の沈黙が過ぎたときだった、


突然サイレンが鳴り響く
レーダーが何かを察知した
あらゆる端末の画面には緊急事態を告げるアラートが表示され、
危機レベルが最高値の7であることを告げている。

数秒後、激しい揺れが基地を襲った!

有栖川公園内にある東京都立中央図書館にミサイルが打ち込まれたのだ。

見るも無惨に瓦礫と化したその姿を巨大モニターで見つめる僕ら、、、

大量の書籍が爆風とともに砕け散り、天高く文学の破片が舞っている、
まるで歌舞伎の紙雪のように、、、、
瓦礫は燃え盛る炎に包まれ、そこへヒラヒラと、
書籍の本文用紙が身を投げていく、、、。

その紙雪のなかに一人の男が、、、、

その男は我々の監視カメラの位置を把握しており、
鋭い視線を送っている、、

僕らは男に睨みをきかされているような感覚、

周囲と比較した感じでは、190cmほどはある大男だ。
だが細身であり、黒いマントをはおっている。
男の後ろにはBMW 320i touringが停まっている。男の車だと思われる。
BMW320iは前後配重が50:50という理想のバランスを持ち、
4気筒エンジンは小型故に前輪よりも中心側に設置されている。
つまり、FRにしてミッドシップのような走りを実現している。


「隊長、監視カメラが動かせません、画像も切り替えることが出来ません。」
何者かによて、基地の監視システムとレーダーがハッキングされた。
間違いなく瓦礫の中に立つ男の仕業だ。

男が語り始めた、、、

「私の名前は、柊栄一郎(ひいらぎ・えいいちろう)。
ここの地下に集う龍蛇族へ告げる。君たちは癌だ!
我々は龍蛇族を排除し日本を救う。」


なんということだ、これが小柴さんの言っていた25年後の危機なのか?


僕らに宣戦布告をし、柊は映像から消えた、、、。


しばらくして基地内の監視システムとレーダーのコントロールを取り戻した。
すると、すぐにサイレンが鳴り響いた。
映し出された映像を見て、全員が言葉を失った。

東京湾海上の「海ほたる」にミサイルが打ち込まれた、、、。


そしてほぼ同時に基地スタッフが何かの情報をキャッチした、、、
「隊長、国会議事堂と首相官邸が自衛隊に占拠されました。」



つづく

外苑西通り編(完)
次回は新章のスタートです

この物語はフィクションであり、登場人物、地名は全て架空のものです。

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