「妙なルール」の上に成り立っている特殊なジャンルがある。
『新書』である。
新書判と呼ばれる173×105mm程度の版型の本です。
岩波新書がそのはじまり。
文庫が古典や既刊本の再版である事に対して、
書き下ろしを中心として、現代人の教養を目的に作られた。
そんな新書の何が「妙なルール」なのかというと、
そのデザインにある。
タイトルごとに個性を出すのではなく、
同じフォーマットの展開をしている。
そのフォーマットデザインが出版社によって異なるのだが、
フォーマットの構造がほぼ同じなのです。
ベースになにかしらのフォルムが単色で配置され、
タイトルや著者の文字サイズや書体が決まっており、
文字数のキャパも決まっている。
シリーズ感をブランディングするには効果的であり、
数多く出版されれば、同じデザインが沢山並ぶので、
書店での見えも良い。
(その反面、内容を訴求することと、タイトルごとの差別化が難しく、
全体の8割程もある大きな帯を巻いたりなど、最近は無法地帯ぎみになっているのです。)
新書のデザインは、それらが出版社のイメージアイコンになっているケースも多く、
その重要性から、著名なデザイナーを積極的に起用している。
集英社新書:原研哉
光文社新書:アランチャン
平凡社新書:菊池信義
ちくま新書:間村俊一
講談社現代新書:中島英樹
幻冬舎新書:鈴木成一
ベスト新書:坂川栄司
などなど、
あげればきりがない。
私は、デザイナーとして仕事を始めた頃から、
いつの日にか、新書のデザインを手がけられるような、
デザイナーになりたいと願い、
いろんな人にその想いを言い続けていました。
そしてデザイナーを仕事としてから12年がすぎたころに、
小学館からその機会をいただくことができました。
田中一光デザイン室を卒業して独立後6年目のことでした。
大手ですが、新書界では最後発になるので、
遅れて出す意味を少しでも確立できれば良いなと思いながらデザインしました。
既存のものを大量に購入して研究を重ねる日々。
そこで見えてきたことがあります。
既存の新書デザインには、具体性を帯びたオブジェクトが少ない、ということ。
千変万化するタイトルを包む装丁なので、できる限り主張が無く、
意味を左右しないことが望ましいので、当然なのですが、
全社がそうなっているために、
何か妙なジャンルになってしまっている感想を持ちました。
その群れの中に、具体性を帯びたデザインを投入したいと強く思いました。
大勢の偉い方々に向けて、何度もプレゼンテーションを重ねて、
ようやく決定したのが、8月まで刊行されていた『小学館101新書』のデザインです。
版元イメージの最高峰だと思われる『ドラえもん』をモチーフに、
何でも取り出せるポケットのようなフォルムを作りました。
新書を表現するには最適な意味付けだと思いました。
「ドラえもんで作ったんだね」と喜んでくれる人は多く、
また「ドラえもんだとは気が付かなかった」といった意見も多く頂きました。
そのフラットな存在感に持ってこれたことは、
新書の装丁としては、OKなのではないでしょうか。
そして4年間、このデザインで200冊近い出版をすることができました。
それだけの数を作っていくと、
様々な問題点が出てきます。
一番大きな問題は、タイトルの「文字数」と「文字サイズ」の関係にあります。
そもそも新書のデザインは、タイトル部分のフォーマットを固定するものなのだが、
編集担当者が付けたいタイトルに対して、字数を制限したり、
内容のイメージとは異なるのに、決まった書体で組まなくてはならなかったり、、、、
さらにこのドラえもんデザインは大きな青い矩形が存在するので、
より窮屈に見えてしまいます。
この青色は、ドラえもんをイメージしている色なので、
新書にしては鮮やかな色を選んでいます。
その結果、深刻な内容のタイトルでも、
POPな印象を与えてしまうことになってしまいました。
いわゆる新書然とした部分が、どうにも許せなくなってきます。
とくに部数が伸び悩んでくると、
もっとタイトル文字を大きくして目立たせたくなってくるものです。
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そして5周年を前にして、
デザインをリニューアルすることになりました。
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数社のコンペ形式になりました。
もちろん私も参加させていただき、無事に勝ち取ることができました。
リニューアルに伴いシリーズ名が、
『小学館101新書』から『小学館新書』に変更になりました。
シンプルで堂々としていてとても好きです。
シンプルで堂々としていてとても好きです。
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さて、次はどのようなデザインが望ましいか、、、と悩んだ末、
造形的なことを追い求めるのではなく、
前述の「4年間で見えてきた欠点」をすべて補えるデザインを考えようと思いました。
その要素は大きく分けると以下です。
●タイトルの文字サイズと文字数は自由
●明朝体とゴシック体を使い分けられる
●テーマに合った色を使える
●これらを満たしながら、『小学館新書』というシリーズ感をきちんと出す。
なかなかの難問です。
そこで考案したのが『フレキシブルドット』と名付けたシステムです。
プレゼンで最初に見せた画像がこれです。
これがレイアウト台紙のような役目を果たします。
この上に、自由に文字をレイアウトするという、極めてシンプルな仕組みです。
文字が入るところのドットが消去されます。
そして、このような装丁になります。
タイトルが3文字であれば、大きなサイズでデザインできます。
しかも素晴らしいことに、縦組でも横組でも大丈夫な仕組みなのです。
文字が入るところはドットが無くなっています。
ドットの色を5色設定しました。
テーマによって選ぶことができます。
タイトルの文字数が多くても、このように美しく配置できます。
新書内シリーズのタイトルです。
全てが自由なのでこのような提案ができることになります。
文字デザインは自由ですが、小学館新書全体のシリース感は損なっておりません。
この2冊のように、ひとつのタイトル内で文字サイズを変えたり、
書体を混植することも可能です。
(明朝とゴシックのそれぞれのファミリー書体は決めています。)
新書でありながら、1冊1冊個性を持っているので、
通常の書籍のような印象を出すことができています。
そして、
ナノナノグラフィックスのデザイン理念を体現できている作品になったと感じています。
ナノナノグラフィックスが10期目を終えて、
新たな時代を迎えるための良い推進力になってくれるお仕事です。
ただ、このデザインの唯一の欠点は、
私の作業が毎回とっても大変になってしまった、ということですw。
ですが、時間をかけてもスッキリしなかった旧デザインよりも、
確実にそれぞれの答えが見つかる新デザインの方が、
大変だけどすごく楽しいのです。
皆さん、書店でお見かけの際には是非手にとて見て下さい。
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