ずっと気になっていた人で、ようやく作品集に出会えた。
『WOMEN ARE HEROES』というプロジェクトを本にまとめたものです。
『WOMEN ARE HEROES』はこんな本です |
男性優位の社会で虐げられる女性達の現状を伝えるため、
女性達にインタビューとポートレート撮影を行い、
町の壁や屋根に巨大ポートレートを貼付けるプロジェクトを続けている。
そのメディアは列車のボディ、橋、自動車、道路、階段など多岐にわたる。
このプロジェクトは参加可能型であり、
女性はモデルを務め、子ども達はグラフィティの貼付けをして参加する。
スラム街や紛争地域などで活動する事で、
虐げられた人々の強いメッセージを伝えている。
この作品がわりと有名ですね。
初めて見たときにすごすぎて絶句しました。
スラムの屋根にポートレートを貼っています。
これなんかも最高にクール!
もうむちゃくちゃにすごい。
この作品集は、女性のインタビューと、もとになったポートレートと、
それを使った作品をセットで見る事ができる。
インタビューとポートレート |
そのポートレートをプールの底にはりつけた作品。 これもそうとうカッコいい。 |
今までも沢山このようなメッセージアートはあった。
すごく気の利いたものや、考えさせる工夫が施されているもの、
なんだかんだでこのジャンルには豊富な表現がある。
でも、ろくでもないものばかりが目に付く。
例えば、最近ちょいちょい見かける動物愛護団体のヌードなんかは、
全然共感できないし魅力的じゃない。
裸なのでそりゃ目を引くけど、僕には露出狂にしか見えない。
闘牛反対!を裸で訴えてみました。 |
裸で牛の形を作って抗議!血も出てるよ! |
闘牛のように歴史と文化のなかで育まれたことに対しては、意見を持たないようにしている。
そこには否定できない価値が詰っていて、
それはまぎれもなく人類の財産だからです。
(人の都合でものを語るなと言われると思うけど、、、)
この『WOMEN ARE HEROS』は「人」を救うために「人」が行っている抗議です。
「対象が動物じゃなくて人なら肯定するのか?」と言われそうですが、
「人」の場合は、「裸で寝転がって絵を描いてみました」的な
上から目線のユーモア(語弊があると思うけどあえて言います)が通用しないのです。
とてつもなくデリケートで、ひとつ間違えると、
守りたい対象を深く傷つけてしまう。
『WOMEN ARE HEROS』はすばらしい。
直接人が騒がず、無言のまま、アートのインパクトで感じさせる。
下手すると殺されかねない政府手つかずのヤバい地域にとけ込むところから始めて、
結果的に住人総出でアートを作り上げている。
大都市の路上で警察に許可をもらって裸で寝転がるのとは訳が違う。
しかも、見た事の無い光景を見せてくれる。
僕が大好きな『クリスト』のような感動がセットで付いてくる。
クリスト『包まれたライヒスターグ』ベルリン |
僕が考える「これからの表現」として大切な要素は、
以前このブログでも触れている「対比と履歴」。
闇雲に新しい物を生み出すのではなく、
「関係性」を見えるものに昇華していく行為が求められていると思う。
『WOMEN ARE HEROS』には、対比と履歴の両方がある。
ボロボロの町並みや、密林の集落に突然現れるモノクロの巨大な人の顔。
ものすごいミスマッチが、ものすごい衝撃的な対比構造を生んでいる。
しかも巨大なので、だれも無視できないルックスになっている。
そして、その作品はそのまま放置されて、自然に老朽化し、朽ち果てて行く。
こんな感じでぼろぼろになってもそのまま。
抗議なので、できるだけ長く掲示することが大切であり、また、
住人たちの手で作られているので、誰も不快に思っていない。
むしろ誇りに思っている。そのことも抗議の強さに繋がっている。
まさに「履歴」が表現に昇華されているのです。
とてもしっかり完成された抗議のスキームなのだと思ってしまう。
作品集の表紙にもなっているこの作品がたくさんのことを物語っている。
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