2011年6月5日日曜日

漆・麗し

4年前くらいに、とある仕事で「蒔絵」の特集をしたことがある。
そのときに、輪島塗の「輪島屋善仁」八代目に話をお聞きした。
様々な漆にまつわる話はどれも興味深いのだが、
何よりも、
「漆を食器に使う意味」の話が印象に残っている。

古来から日本人は漆黒のなかに、宇宙を見出してきた。
宇宙とは、「無限の広がり」と同意。
その宇宙で出来た器に汁や飯を盛り、
体内にかきこむ。

食材は自然物。
自然物を神格化してきた日本人。
神を宇宙のポテンシャルとともに体内に取り入れるのです。

その結果、両者の相乗効果によって、
栄養素が無限に広がるということなのか。

とにかく、食器に使うことが素晴らしいと力説していた。
かき込むように食べろともいっていたような。

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みなさんもご存知のとおり、
漆は塗料としては極めて優秀です。
見た目の美しさにくわえて、
耐久性がある。
腐敗作用がある。
接着効果もある。

その逞しい能力の中で、
私が気になるのが、「腐敗作用」。

昔、自分自身のミイラを仏像と化する即身仏を目指す僧侶達が、
死んで即身仏となる直前に自分自身が腐らずにミイラ化するように
漆を飲んで防腐したという。
この修行僧たちは、日頃から防腐に対する対策を続けている。
タンパク質が少ない木の実だけを食すのです。
即身仏化とは生きたまま徐々にミイラ化していく行為でして、
脂肪がとけて、筋肉が朽ちて、徐々に死んでいく。
想像を絶する苦痛を伴うのだろうと思う。
そんな中、仏に変わるために、読経を続け、
腐らないように死んでいくための自己管理を続けるのです。

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スポーツ選手って、
毎日、基礎体力維持のために、ジョギングをしたり、
それぞれが決めた目標のための準備を続けます。
理想の体を維持するために食事も規制する。
一度やめたらなかなか取り戻せない。

音楽家もそう。
音大の友人は、ヴァイオリン科でして、夏でも手袋していた。
体育の授業は基本的に全て不参加。
自転車ものらない。
字もなるべく書かなかった。
彼女が決めた目標のために。

きっとこれらって、
腐らないように死んでいくための自己管理なのかなと思う。
(死=目的)
大成したのに腐っている人って結構いるからね。

目標を成し遂げられる直前に、
漆を飲みたい。
腐敗を防ぐから。
その先に劣化することがなくなるから。
決めたことを全うする意志が備われば、
それぞれにとっての「漆」が何なのか、解るのだろうね。

グラフィックデザイナーの自分にとってのジョギングって何かな?
本読んだり、映画見たり、旅をしたり、美しい物を見たり、、、。
全部楽しいことばかり。
なんか違うな。
もっと我慢するようなことって無いかな?
観察力維持のために、たまにデッサンをするくらいかな。
でもそれも楽しいな。
やっぱり無いな。
睡眠が足りないくらいだな。
もっと辛くないと雰囲気でないね。

今は良くわからないから、
とりあえず4年前の、お話を聞いた次の日から、
ご飯と味噌汁は、両方とも漆塗りの大きめの椀で食べています。
理由抜きに、お米は漆塗りで食べるのが一番おいしいと思う。
漆って、外国名「JAPAN」だし、
世界中のみんなが解っている気がする。

多分、俺、腐りにくいよ。
よく、人間も、お肉も、果実も、腐る直前がいちばんいけてるって言うけど、
俺は腐らないから、ずっといけてないかも。

2 件のコメント:

  1. 漆器が宇宙...深いですね。能登出身でいつも輪島塗が傍に在った私ですが、存じませんでした。有難うございます。

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  2. 匿名様、コメントありがとうございます。
    輪島塗が傍にある環境で育ったこと、羨ましいです。
    よろしければたまに立ち寄ってみて下さい。

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